この記事のポイント
  • グローバルマーケティングは「どこまで統一し、どこから現地に合わせるか」を決める仕事
  • 製品・価格・流通・販促(4P)のすべてを、進出先の基準で見直す
  • 市場調査は、数字(定量)と生の声(定性)の両方をセットで
  • 欧州では、展示会・PR・デジタルを“点”でなく“線”でつなぐと成果が出やすい

グローバルマーケティングとは

グローバルマーケティングとは、複数の国や地域を対象に、製品やサービスを売るためのマーケティング活動のことです。「海外マーケティング」とほぼ同じ意味で使われますが、グローバルマーケティングという言葉には、国ごとにバラバラに動くのではなく、全体としての戦略を持つというニュアンスがあります。

その中心にある問いは、ひとつだけです。何を世界共通にして、何を国ごとに変えるか。

「標準化」と「現地化」のバランス

標準化(どこでも同じ)現地化(国ごとに変える)
メリットブランドの一貫性、コスト効率、スピード現地の好みに合う、競合との差別化
デメリット現地で響かない、誤解されるコスト増、ブランドがぶれる
向いている要素ブランドの核(理念、ロゴ、品質基準)商品仕様、価格、表現、販促チャネル

日本企業におすすめしているのは、「ブランドの核は変えない、伝え方は大胆に変える」という考え方です。職人性、素材、品質へのこだわりといった日本企業の強みは、欧州でも強力な武器になります。変えるべきは、その強みが相手に届くための言葉、見せ方、売り場です。

4Pを進出先の基準で見直す

Product(製品)

サイズ、味、仕様、パッケージ、商品名。日本仕様のままでよいか、現地向けに調整すべきかを検討します。私が関わった英国での食品調査では、進出商品の選定から、味の濃さ、商品名、シズル画像、パッケージまで、6つの項目を英国の生活者の反応で決定しました。

Price(価格)

輸送費・関税・VAT・流通マージンを積み上げると、日本の価格の2〜3倍になることも珍しくありません。重要なのは、その価格が現地の競合や代替品と比べて、納得できる理由があるかです。「日本製だから高い」ではなく、「この理由でこの価格」と言える設計が必要です。

Place(流通)

百貨店、セレクトショップ、専門店、スーパー、EC、マーケットプレイス。欧州では独立系の小売店が今も大きな役割を持っており、どの店に置かれるかが、ブランドの位置づけそのものになります。

Promotion(販促)

展示会、PR、SNS、インフルエンサー、検索、広告。国によって効果的なチャネルが違います。英国では、業界メディアや信頼できる第三者の評価が購買に強く影響します。

海外市場調査の進め方

  1. デスクリサーチ統計、業界レポート、競合のサイトや価格、規制情報。ジェトロの国別情報や、現地の業界団体のデータが役立ちます。
  2. 店頭・現地視察実際の売り場で、どこに、どんな商品が、いくらで、どう並んでいるかを見ます。写真では分からない空気感があります。
  3. 定量調査(アンケート)年齢・性別・地域などの条件で対象者を集め、商品やコンセプトの受容性を数字で確認します。
  4. 定性調査(インタビュー・座談会)「なぜそう感じるのか」を掘り下げます。アンケートで方向を決め、座談会で理由を掘る。この往復が、判断の精度を上げます。
  5. テスト販売越境EC、ポップアップ、展示会での受注。実際にお金が動く反応は、何よりも正直なデータです。

欧州で効く「線」のマーケティング

欧州で成果を出している日本企業に共通しているのは、施策を点ではなく線でつないでいることです。

  • 展示会の前:出展情報を英語サイトとSNSで告知し、狙いたいバイヤーやメディアに事前にアポイントを取る
  • 展示会の最中:ブースの写真や来場者の反応をSNSで発信し、その場で商談を進める
  • 展示会の後:48時間以内にフォローし、サンプル送付や現地での再訪問につなげる。メディア掲載を英語サイトの実績として積み上げる

ファッションブランドのロンドン・ファッションウィーク参加を支援した際も、会期前にフォトシュートで素材をそろえ、プレスやインフルエンサーに当たり、会期後に掲載や反応をまとめる、という流れを毎シーズン繰り返しました。シーズンを重ねるごとに紹介が増える状態は、この積み重ねから生まれます。

海外マーケティングを成功させるために

最後に、30年間、日本と欧州の間で仕事をしてきて感じることをひとつ。海外マーケティングで最も大切なのは、現地の人の声を、判断の場に持ち込むことです。

どれだけ優れた戦略も、日本の会議室の中だけで作られていると、現地では少しずつずれていきます。そのずれを早い段階で見つけ、修正できるかどうかが、成否を分けます。私はロンドンから、調査の設計と実施、現地の声の翻訳(言葉だけでなく文脈まで)、そしてマーケティングの実行までを担っています。

よくあるご質問

海外マーケティングと国内マーケティングの一番の違いは何ですか?

前提としている“常識”が共有されていないことです。ブランドの知名度、価格の相場感、品質への期待、購入のきっかけ——日本では説明不要なことを、すべて一から伝える必要があります。

海外市場調査は、どのように行えばいいですか?

まず公開データや業界レポートで市場の全体像をつかみ(デスクリサーチ)、次に現地の消費者やバイヤーへのアンケート(定量)と、インタビューや座談会(定性)で仮説を検証します。数字だけでは“なぜ”が分からず、声だけでは規模が分からないため、両方を組み合わせるのが基本です。

予算が限られている場合、何から始めるべきですか?

対象を一つの国、一つの顧客層に絞り、その人たちの声を直接聞くことから始めてください。小規模な座談会やテスト販売でも、日本の会議室で議論を重ねるより、はるかに多くのことが分かります。

Japan Business Insider英国在住30年、英日バイリンガルのプロジェクトマネージャー/デジタルマーケター。ロンドンを拠点に、日本企業の欧州展示会・市場調査・ファッションウィーク運営・デジタルマーケティングを、現地の窓口として支援しています。